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キスをして
第10章 珍事と感傷
「出来たぁ!」

緊張からの解放に思わず声が出てしまった。

「あれ?」

何!?変!?

「まともな料理だ」

「ちゃんと食べられるって言ったでしょ」

言っても作ったのは鮭のホイル焼きと豚汁に野菜のナムルだけだ。これ以上のクォリティーは私には無理です。

「しかもちゃんと美味しい…」

期待外れだと言いたげな顔に抗議しつつ自分でも食べて安心する。味見はしたけど緊張し過ぎてイマイチ味が分からなかったのだ。

「ホイル焼きとかするんだね」

「それが唯一出来る自信のあった料理なの」

「よく作ったの?」

「作ったのは3回位かな?お父さんがバーベキュー好きでよく小学生の頃一緒にやってたんだよね」

「いいお父さんだね」

「え~普通の陽気なおじさんだよ~?」

食べ終わったお皿を運び洗っているとお風呂を沸かしに行ってくれた。

凄く沈んだ顔をしていたから心配したけどいつもの笑顔になって良かった。
そして当たり前のように私の着替えとタオルを置いてくれている彼に通常モードになったのだと確信した。

「泊まっていくよね?」

「……帰るって言ったら?」

「良いよ?俺の着替えなんかすぐだしね」

私が一人で帰る選択肢はもとより存在しないらしい。

「泊まります」

「じゃあ俺の着替え用意してくるから先にお風呂行ってて」

「う…一人で入るから」

うっかり『うん』って言いそうだったわ。一緒になんて恥ずかしすぎる。
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