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キスをして
第10章 珍事と感傷
私が倒れてから暫くは忙しかったものの無理をしたおかげで週に2泊程度で済むほどに落ち着いた。
相変わらず誠司の送迎付きだし私が倒れたのを知って黒沢さんがお気持ち程度に調整してくれた。

変わったことと言えば最近誠司が飲みに行くことがある。
ずっと暇があれば時計を弄っていたのに一体どんな心境の変化なのかは分からないが「友達と飲んでくる」と言われれば詮索などすべきじゃない。

というよりは面倒な女になりたくない。

今日もその飲みに行く日でタクシーで帰るという言いつけは守らず22時の電車で帰ってきたところだ。
例え誠司に見つかってもコンビニに寄りたかったと言えば渋々納得してくれる。
お陰で居ない日は発泡酒とコンビニ弁当の食事で落ち着いた。

商店街を抜け出した所で見覚えのある女性が見えた。

「あれ?律香ちゃん1人?」

「こんばんは‥仕事帰りです。誠司さんなら友達と飲みに行ってますよ」

「だから連絡付かないのね。律香ちゃん今からコンビニご飯?」

「あ…はい」

「私も夕飯食べてないの。一緒に食べましょ」

半ば強引なのは姉弟なせいだろうか。
私がこの笑顔に弱いせいだろうか。

「何にもない部屋ね。誠司よりきれい好きなのね」

「いえ寝に帰ってくるだけなので。コーヒーですか?」

「ははっ仕事人間か!誠司みたいね。お酒は?」

「お酒は今買って来たのしかないです」

「じゃあ冷蔵庫にあるもので適当に作るから誠司の家からお酒取ってきてくれないかな?鍵持ってるよね?」
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