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キスをして
第3章 間宮の憂鬱
「何ですか?」

「なんでこのクソ寒いのに上着来てないんだよっ」

「コンビニまでだから」

「上着着て行け」

「いいっ黒沢さんの背広とか無理っ」

「無理って言うな」

黒沢さん確実に酔ってる。
接待帰りだな。

「元彼の言うとこも聞けよ。大体なぁデザイナーが倒れたら元も子もないんだよ」

渋々背広を受け取りコンビニへ向かう。

大きいのよ、アンタのは。
どさくさに紛れて下の名前で呼ぶし。

黒沢さんと別れたのはもう1年も前だ。別にどちらかに問題があったわけでも喧嘩をした訳でもない。

ただ会う時間が取れなかった。
私が仕事を早く終わらせたって黒沢さんが接待だったり、黒沢さんが早く終わっても私が残業だったり。

黒沢さんの部屋に帰ってもただ寝るだけで会話なんて碌にしなかった。
一番長く一緒に居られるのは社内しかなかった。

私も黒沢さんも仕事が一番だったから別れただけだ。

コンビニ袋を下げて戻ると机に突っ伏して寝ている黒沢さんの横に二日酔いの薬を置いて背広を掛けておいた。

「なんだりっちゃんが背広持ってたのか」

「下で会って渡されたんです」

徹夜続きでハイになっている日下さんに掴まると面倒だからさっさと逃げるに限る。
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