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キスをして
第11章 小塚誠司
「心配してくれてたんだね。大丈夫だよ」

優しく響く落ち着いた声に安心してと言われて居るみたいだ。

「時計はスイスに送ったんだ。近くにあるから何時までも考える羽目になるんだって叱られてね」

「ダヴィッドさん?」

「友人だよ。確かに何時までもとはいかないからね。なんでもない事みたいに言われるとそれもそうだと思ってね」

甘えだよと笑って続ける誠司の声は晴れやかだ。
きっとその友人を信頼してるんだろうな。

「難しく考えすぎたんだよ。律が言った通り俺はそれをするだけで精一杯で今同じ状況になっても同じ事をしたんだと思う。だからあのときの行動を否定は出来ない‥それにあの時計は俺じゃなきゃ作れなかったと自負してるしね」

変に自信持ち過ぎかな?と不安げに首を傾げられてそんな事はないと告げるとにこやかに笑った。

「向こうからの仕事量は確かに多いね。ダヴィッドさんは凄く仕事に細かくて正確で顧客からの信頼は厚いんだけど人に任せるのが下手な人でね。自分が動くのが好きな人だからこうなった時困るって昔から言ってたんだけど‥結局彼の仕事が俺に回ってくる」

「それじゃ―」

「ダヴィッドさんももうすぐ退院するみたいだから。その時はしっかり休暇貰わないとね」

あ‥いつもの笑顔だ。
よく知ってる誠司だ。

「俺からも一つ良いかな」

少し重い声で続ける。

「俺の姉さんと話してから暫く挙動不審だったよね。どうして?」

まずい。忘れようとしてたのに‥
お姉さんに結婚の二文字を聞かされてから暫く誠司を見る度意識してしまっていたのだ。
が、そんな事言えるわけ無い。
でも誠司に隠し続ける自信もない。
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