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キスをして
第12章 律香と誠司
「酷い顔」

朝から溜め息ばかりが漏れる。
給湯室の鏡に映る血色の悪い自分に嫌気がさす。
昨日の事が頭に張り付いてそれを切り離そうと必死になっている。

いつもなら連絡がつかなければ部屋にだって来るのに誠司は来なかった。
来れたって困るのに来なければそれはそれで不安にしかならない。

早くデスクに戻らなくてはいけないのに。
仕事は溜まっている。
やらなければ帰ることが出来なくなってしまう。
皆に心配されていることは分かっているからやらなくては余計な心配を更に掛けることになってしまう。

「間宮さん。鹿島さんから御電話ですが繋げても大丈夫ですか?」

「繋いで。デスクで取ります」

私にゆっくりと悩んでいる暇はどこにもなかった。


毎日同じ時刻に誠司からの着信がある。
帰りの時刻の確認だと分かっているがずっと無視し続けていた。

「橘さんは?」

「橘さんならコンビニに買い出し行ってます」

「お前はまだ帰らないのか」

「終電に間に合えば問題ないです。黒沢さんは?」

「俺も同じくらいかな····送ってやろうか」

「やめ·····いや、送って下さい」

「迎えは良いのか?」

「大丈夫ですよ。言わなきゃ来ませんから」

最近顔を見てもいないし勝手に帰っても何も言ってこないのだし忙しいのだろう。
それは私にも好都合だ。

終電を少し過ぎてから黒沢さんの車で会社を出た。

「最近は迎えに来てもらってないのか」

「そんな事する気になれそうに思うの?」

「そうだよな。明日休みだろ話に行けば」

「···言いたいことが分からないから」

何から言えば良いのか分からない。
自分が何を言ってしまうか想像も出来ない。
どちらにしても明日家に居れば否が応でも合う羽目になりそうだ。
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