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キスをして
第12章 律香と誠司
「荷造りは?」

「律に見えるところ以外はもう済んだ」

「そうまでして隠したかったんですか!?」

「次に部屋に来たときにはもう分かるさ。流石に詰め始めないと終わらないからな」

彼とは何度も話した。
始めは理解などしてくれる筈もなかったが何かあったときのフォローを頼めるのは彼以外に思い当たらなかった。

「予定通りでいくんですか?」

「あぁチケットも届いてる」

目の前に座る彼は深く息を吐き頭を掻いた。

「明日には自分で言うんですね」

「あぁ」

彼と話すのもこれが最後になるだろう。

「····今更これ以上言っても仕方無いんでしょうし気休め程度に付き合いますよ」

「悪いな」

結局深夜2時まで飲み続け彼の代行を待った後別れた。
明日は律と話さなくてはいけない。
これ以上は誤魔化すわけにいかないことは誰よりもよく分かっていた。

早朝から店内の荷造りをしながら彼女が出掛けるのを待っていた。
しかし、店内の荷造りを全て終えても出ては来なかった。

電話を掛けても出ることは勿論ない。
アパートへ向かい部屋の前でもう一度鳴らすと中から微かに音がした。
インターホンを鳴らしても反応はない。

「仕方ないな」

こんな気分は彼女に会ったばかりの頃に味わったのが最後だったな。



朝から布団に潜ったまま日下さん達の話を思い出していた。
黒沢さんはずっと前から知っていたんだろうか。
誠司と何度も会っていたみたいだし私よりよく知ってるのかもしれない。

昼を過ぎた頃着信が鳴り続けたが確認するのが怖くて無視した。鳴り止んだ後暫くしてインターホンがなって着信の相手を確信した。
それでも出る気にはなれなかった。
忘れようと躍起になっていた感情が再発し自分の中で渦巻いた。
食欲もなく何もする気にもなれず気付けばもう夕方だ。

「···何か食べなくちゃ」

ノロノロとベッドから這い出してフラフラと冷凍庫を漁る。しかし、食材はあれど調理する気力も湧かず仕方なく近所の弁当屋に行くことにした。
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