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キスをして
第13章 律香の本懐
「よし!俺帰るわ」

「本当に食べに来ただけなんですね」

「そう言う台詞が男に誤解を与えんの!」

「·····気を付けます」

「もう黒沢さん頼れないんだからさ」

「お世話かけます」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

玄関で見送ってから仕事を始める。
夜の方が仕事が捗るのだ。

デスクに置かれた結婚式の招待状に少し落ち込んでいる自分が笑える。

「黒沢さんも結婚かぁ。しかも佐伯さん」

仕事を辞めるときに黒沢さんにカミングアウトされてかなり驚いたのを未だ覚えている。

自分だけがあの頃に取り残されたみたい。
進まなきゃと思いながら誰も好きにはなれず誰かとそうなりたいとも思えない。
本当に仕事だけが趣味になって早く結果が欲しいと焦りだけが募る。

前に興味本意で名前を検索してしまったことを呪った。
華やかで称賛を受ける彼の記事にいたたまれなくなった。称賛を受ける彼の時計は本当に綺麗だった。

心のどこかで成功を嬉しく思ってしまう自分は未だ未練があるんだと情けなくて仕方なくなる。

「馬鹿みたい···」

仕事を辞めても相変わらず忙しくさせてもらっている。むしろ雑務もしなくてはいけないからより忙しくなった。

「間宮さん!お疲れ様です」

「お疲れ~。遊んでる暇なんてあるのかなぁ?真木君」

「俺だってちゃんと終わる時くらいありますよ」

「仲良いわねぇ。真木君が女の子連れてきた時はビックリしたけど」

「間宮さん面白いでしょ?」

誠司が居なくなって、黒沢さんが佐伯さんとの事をカミングアウトしてから外で呑むのは真木君だけになってしまった。
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