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キスをして
第13章 律香の本懐
通い慣れたデザイン事務所に他社のミーティングを終えた足で向かった。

「はよ」

「っおはようございます」

エレベーターのドアを抉じ開けるように入ってきた黒沢さんに動揺した声で返した。

「相変わらずだなお前」

「何よ」

「仕事辞めたんだからそんな冷たげに言わなくても」

「いやいや、奥様いらっしゃいますから」

「まだ籍入れてないけどな」

「は?」

「「···········」」

「破談にはしねぇよ!妙な勘繰りいれるのやめろ」

「はははっ冗談だって。ウェルカムボードは式の一ヶ月前には納品させていただきます」

ふざけて深々と頭を下げると黒沢さんも深々と頭を下げてくれる。

「宜しく御願いします」

エレベーターを降りて黒沢さんに事務所の打ち合わせルームに案内される。
もう受付の佐伯さんは居ないから案内してくれる人が居ない。

「デスク行かないの?」

「橘さんが来たら行く。あのさ、なんでフリーになったんだよ」

「なんでって色んなデザインしたかったから」

「好きな場所でしたかったんじゃなくてか?」

「····何が言いたいの」

「海外の仕事にも手を出して結果も付いてきて語学力も身に付けて日本に居るのは何でかと思ってな」

「人の心配ばっかりしてると佐伯さん不安がるわよ。前に喧嘩したことあるんでしょ」

「そういう所だけ成長してんのな」

黒沢さんの言いたいことは分かる。
でも一度切り捨てたものを再度手にしようとするのはそれなりの覚悟がいるものだ。

「間宮お待たせ───俺··なんかまずかった?」

「「いいえ?」」

「こえーよ君達」

「橘さん今日ここで最後なんです。時間潰してるんで夕飯食べに行きませんか?··二人で」

「ん··構わんけど」

橘さんと入れ替わりに出てい黒沢さんが私に向けて舌打ちしたのが分かった。
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