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キスをして
第13章 律香の本懐
「まだ8時半か」

酔いを醒まして仕事でもしようかと酔い醒ましに味噌汁を作ろうとキッチンに入る。

鍋に水を入れ火を点けた。

────黒沢さんが彼を呼ぶとは思わなかった。
連絡なんて取ってないと思っていた。

「だから私にあんなこと聞いたのかな」

火を見つめながら結論のない思考を続ける。
眺めていた火は気付けばぼやけて揺らいでやっと自分が泣いていることを理解した。

間宮さんと呼ばれたことがすごく悲しかった。
自分で終わらせたのにそう呼ばれる事の覚悟もしていなかったなんて。

もう結果を待つ理由もない。
私は望むのが遅すぎたんだ。

「──っ、···。」

止まらない涙を必死で拭っても私の意思に反した様に一向に止まらない。

どのくらいキッチンで泣き続けただろうか。
涙も出なくなって声を我慢していたせいで喉が痛んだ。

──────ピンポーン

静かな部屋に電子音が響く。
何か配達があるのだろうかと思いながらも出る気にはなれない。

しかし、一向に音が鳴り止む気配がない。
仕方なく玄関に向かいドアを開けた。

「駄目だよ。ちゃんと誰か確認しないと」

「!···何で!?」

「泣いてたの?目が赤くなってる」

心配そうに首を傾げる男に言葉が続けられない。

「何かあった?」

「··········何も、ないよ···何しに来たの」

語尾が強くなりそうになるのを必死で耐える。 

「渡したいものがあって。会場で渡せなかったから」

差し出された手に乗っていたのは包装も何もされていない小さめの箱だ。

「何」

「君のだよ」

言われている意味が分からず押し付けるように差し出された箱を受け取った。
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