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キスをして
第13章 律香の本懐
「確認して」

あの頃と変わらない威圧感に圧されて箱を開けた。

「······勝手なことしないでよ」

祖母の時計だった。
ママに渡した時計は真木くんが受け取ったんだろう。
真木君も誠司の居場所を知ってたんだ。

直された時計は規則正しく音をたてている。

「用はこれだけなんだけど····」

言葉を発する事のない私に戸惑っている彼は言葉を詰まらせる。

「料金は要らないから···じゃあ。遅くにごめん」

背を向けて玄関を出ていく。
このまま追い掛けなければ何も起きない。
何も変わらない。
あの頃ならきっと出来なかった。
でも今は形振り構っていられない。

追い掛けてドアを開けると姿はなかった。

「···っ」

馬鹿かも知れない。
情けないし、無様だし、滑稽かも知れない。

それでもいい。
もう後悔で泣くのは嫌だ。

通路を走って階段に出ると丁度後ろ姿が陰に隠れるところだった。

「っ待って!」

私の声に振り返った彼はとても驚いている。

「···待って」

階段下から私を見る目は優しくて言葉を詰まらせる私をただじっと待ってくれる。

「行かないで」

たった一言を言葉にするだけでどうして涙が伝うの。

「··おねが··い」

絞り出す言葉を抱き留めるように私をゆっくりと抱き締めてくれる。

「うん、ここに居るから大丈夫だよ」

労るように私を引き寄せて変わらない優しい声が私に降ってくる。

落ち着くまでなにも言わずにただ静かに私に触れる。
この腕の中はとても安心する。
あんなに焦りと不安と後悔でぐちゃぐちゃになった感情がゆっくりと整理されていく。
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