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シャネルを着た悪魔
第4章 ☆CHANEL NO4☆
────真っ白のジャケット、胸元にはシャネルのコサージュを付けている。パンツは3年前にフランスで買ったノーブランドのもの。濃いベージュで形が綺麗だから足がとても長く見える。
そして……年末。アイツに買って貰ったカルティエのハイヒールを履いて、私は颯爽とタクシーに乗り込んだ。
車内で開くスケジュール帳には大きく、ポールのサインが書かれてある。そして三人でお揃いで買った阪神タイガースのボールペンも挟んであった。
まるで夢の様な時間だったため、かなり昔の出来事に思える。
でも──応援団の横で一緒にビールを飲みながら応援したのも、ランチを食べながらバカな話をしたのも、帰りに政治の話で熱くなったのも、ほんの一週間ほど前の出来事だった。
あの時──靖国と言われた時は、正直どうしたものかと思った。
でも、やはりポールは頭が良い。私のあの言葉ですぐに状況を理解してくれたのだから。
年始の1月2日の出勤は非常に重苦しいものだった。
スケジュール帳には書いていないけど、重大発表とやらで個人的に代表室に呼ばれている私。連絡がきたのは大みそかだった。
実家で、フグを食べながら『何だろうね?』と家族で言い合っていたのすらも懐かしい。
どうして人間は新しい年を向かえると、ほんの数日前の事でも、かなり昔の様に思ってしまうのだろう。
「今日から仕事はじめですか?」
「はい。そうなんですよ」
「それはそれはお疲れさまです」
「運転手さんこそお疲れさま」
「でも、良い天気ですね。雪も降っていないし、この時期にしては珍しくコートが必要ないくらいに丁度良い気温をしている」
「確かに。ジャケット着てたら我慢できる寒さですもんね」
「お日様もよく出ているし……良い仕事はじめになれば良いですね」
「ふふ、そうですね。──ありがとうございます」
窓から外を見た。車も少ないし飛行機も見えない。
見えるのは真っ青の冬らしい空と──手を繋いで幸せそうに歩いている初詣帰りの家族連れだった。