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シャネルを着た悪魔
第5章 ☆CHANEL NO5☆
引き出しから茶封筒を取りだして、一度奥の襖へ消えた店主さん。間もなくして現れた時には──その封筒はパンパンになっていた。
「君の名前だけ、教えてくれ」
「名前……。」
「ああ。」
「柳沢リサ、です」
「いい名前だ。ヤナギの西洋花言葉を知ってるか?」
「疎いもので全く……」
「ヤナギには”sadness”という言葉があるんだよ」
垂れた目じりは、ここで質預かりという手段を提供してくれた彼の優しさが溢れていた。
「サッドネス、悲哀ですね」
「そう。リサさんはきっと今、悲哀どん底だろう」
軽く笑って見せる目の前の男性。
そりゃそうだ──何度も言う様に、新年早々ワケの分からない理由でクビになったと思ったら『一番の資産』でもある家も誰かに勝手に売却された。
車も乗れない、集めていた『本物の資産』も手を出せない──そして銀行口座も凍結ときたら携帯も利用停止。クレジットも勿論。
『悲哀』なんていう綺麗な日本語で片付かないほどの気分だった。
「でもね、同じヤナギなんだけど”freedum”という花言葉もある」
「フリーダムは、自由ですね」
「そうそう。今の『悲哀』は『本物の自由』になるためのステップ──いや、裏面だと思えば良いんだよ。苗字っていうのはそんなものだ」
「裏面を磨き終わった時、神は飽き足りてその人間を表面に移動させる」
「その時こそが……本当に自由になれる時なんじゃないのか?」