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シャネルを着た悪魔
第7章 ☆CHANEL NO7☆
「お〜い、逃げるのか?」
「おい!!」
グラスを雑に机の上に置いて、階段を登ろうとする私の背中に聞こえてくる激しい声。
カーテンを引っ張る前にもう一度だけ振り向いた。
「何?ここでドクトについての話し合い?それとも慰安婦についての話し合い?」
「お前、誰にそんな口聞いてるのか分かってんのか。」
「知らないわよ。フランクミュラーの限定品を持ってる男、にこんな口聞いてるだけだけど。それについて何か問題があるわけ?」
「はっ。ショパールの型落ちなんか付けた様な貧乏くさい女には俺の事が分からないだろうな。」
「しかも日本人だぜ!」
「なあ、もっと飲めよ。楽しもうぜ」
「──ショパールの型落ち、ねえ」
確かに型落ちだ。100万円以内で手に入る時計なんて、コイツからしたら安物の時計でしかないのだろう。
「………。」
「ああ?何も言えないの?」
「それとも日本人は英語が話せないから単語思いつかなくなっちゃった?」
クー君が私の元に来ようとするのを左手を上げて阻止する。
下品な笑いも、下品な罵声も──バカバカしい。
「アンタみたいに高いのこそが格好良いっていう考え方じゃないだけよ」
「何だって?」
「これは確かに型落ちの時計よ。でも──服に似合うし私に似合うから付けているの。ここで私がハリーウィンストンのド派手な時計を付けてたら良かったの?」
「ねえ、そんな考えバカバカしいと思わない?」
「自分に似合う資産を付けて、何が悪いの?」
「貧乏人の自己肯定よ。ねえ放置しておきましょう」
サイボーグ女が飽きた様な顔で、眼鏡に声をかけるけど……どうもプライドが高いというか負けず嫌いらしい。
今度こそ彼は立ち上がった。
「おい、おめえ。調子乗ってるとエライ事になるぞ」
「何?どうなるの?」