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シャネルを着た悪魔
第8章 ☆CHANEL NO8☆
突然、イさんと二人きりなんて絶対、しょっぱなでの出来事なら戸惑っていただろう。それこそフォークやナイフをそこら辺に落としていたかもしれない。
でもお酒の力も有って今は大丈夫だった。
はじめに感じた威圧感を、今は感じないから、というのも理由の一つに有ると思う。
「リサさん」
「はい。」
「……テヒョンは、どうですか」
「どう、とは?」
「彼は小さい時から、繊細な子でした。繊細だけどそれを隠したいから例の『100万円事件』の様な行動をする。」
100万円事件──。
テヒョンは言われるのを本当にイヤがっていた。私は爆笑させてもらったけどね。
12歳の時にフラれた女の子に対し次の日、イキナリ学校へ100万円を持って行ったらしい。決め言葉は『これだけで足りるか?』というのだから、今と全く変わっていない様に思える。
変わったのは額と、支払うつもりのお金が『帝国のお金』ではなく『自分のお金』になった事だろう。そんな年齢で自由に、その額を使えるというエピソードは”天下の帝国グループらしい”。
「本当は、お金として見られるのが凄く嫌いなんだ。でも、お金でしか振り向いてくれないと思うくらいには性格が歪んでる、といった方が正しいのかな」
「今は、サファイアとして世界で活躍し出して──まあ、悪い噂もそんなに聞かないし少しは変わったのだろう。と思ってたけど、やっぱり今回の事で思ったよ。アイツは──『バカ』なんだ」
「ははっ」
「思うんだよ」
「何をですか?」
もう、紅茶も冷めた頃だろう。右手でマグカップを持ち、左手を沿えながら飲んだ味はダージリンティーそのものだった。
「普通なら、そんな事をされて──笑いながらアイツの横になんか居れないハズだ。確かに事件で見る様な『誘拐』や『監禁』とはまた違う。でも内情を知ってる者からすれば、アイツのあの行動はそれらと変わりがない。だろう?」
「そうですね」
「でもリサさんは、アイツと一緒に居る時に『本心から』笑っている様に見える。そして、さっきみたいに『本心で』彼に意見をして」
「『本心で』言い合いをしている。まるで普通のカップルみたいに思えたんだ」
「……。」