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シャネルを着た悪魔
第1章 ☆CHANEL NO1☆

ふと時計を見るともう20分も経っていた。

さすがに仕事中だし支部長達が居るであろう食堂に向かわないと——。と思い三本目のタバコを消して灰皿をお洒落な机の上に置いた。


チラッと横目で彼を見るとパソコンとキーボードを目の前にして、ハングルが埋め尽くされている紙を見つめている。

「曲作ってるの?ご飯は?」

何故だか彼の背中が小さく見えて、私は自分から話しかけていた。


「これが納得いくまでは食べない。」

「完璧主義なんだ。ちょっと見せてよ」

「お前韓国語分かんないだろ」


「え——何でその事知ってるの?」


さっきの挨拶の会話は全部英語だった。

後は少しの日本語と少しのロシア語。韓国語は一切会話に出てこなかったはずなのに——。


「俺の事思い出せない?」

「………?」



「言った方は忘れるけど言われた方は覚えてるってやつだな。」


とだけ言ってから綺麗な瞳で私を見つめる彼。ハットはもう被っていない。


この光景———……この目……。



「あ、あんたっ……!」


私が"ASAO"であの四人組に言い返した時に唯一黙って見つめていたあの男だ。



「うわあ!最悪!」


「俺の方が最悪だよ。」

「俺はあの時、誰のことも値踏みせずに黙ってたのにお前に言い返されたんだ。とんだトバッチリだったよ」


「でもお持ち帰りしたでしょ?」

「はあ?俺はしてないけど……でも何で知ってるんだ?」


「何でってフェイスブックに——あっ。」

「あぁ、そういう事ね」


「あんたのお友だちも選ぶ相手が悪かったのよ。」

「一応あそこに居たのは後輩。」


「そうなんだ。じゃあウチのお取引先の大事な子達なワケね。」

「でも、ちゃんと女の選び方教えてあげた方が良いよ」



まさかこいつがVIP取引先のキーパーソンってなぁ。

世間は広い様で狭いのだとこれほどまでに強く実感したのは初めてかもしれない。



『少しばかりは仲良くしておこう、当社の為にも。』

なんていう営業マンらしい言葉が頭に浮かんで彼の目の前にある楽譜を見た。


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