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シャネルを着た悪魔
第9章 ☆CHANEL NO9☆
フロアの真ん中を通過した時、ワンピースのポケットからスマホが落ちそうになる。
一瞬だけ光った画面には着信もメールも入っていない。この位の時間に私が家に居なかったら必ず電話をしてくるハズの同居人からの電話も、勿論無い。
「……。」
ルイ君の話が本当なら、彼は今頃どこかのクラブで私と同じ様にお酒を飲んで楽しんでいるのだろう。違うとしたら二人の『状況』だ。
私は──楽しい表情を浮かべれるほどの余裕はない。
アートの長男が、前を向いてるのを良い事に、素早くソン・テヒョンに発信した。
画面には通信中の文字。
「…………。お願い」
誰にも聞こえない声。
まだ見てくる女も男も心底ウザったかった。なんで誰も助けてくれないの?お店の人やボディーガードに誰かが通報するなり何なりする筈だ。
DVが許されている国でも無いんだし──。
「──っ」
あれから泣いていなかった。
あれから──ずっと楽しい生活を過ごしてた。
でも、今になって怖さが襲う。私はこの国では『異国人』になり、韓国語もネイティブじゃない。むしろ、まだまだ初心者だ。
日本でも絶対に逆らえない力が有ると思う。
かつて『結束の住友、人の三井、組織の三菱』と言われた、この旧三財閥で最も力を持つ様な人には例え総理であっても、官房長官であっても逆らえないだろう。
人生にはその様な上下関係が必ず存在する。
こんなに楽しそうに見えて、みんなそれぞれに自尊心を持っていそうな韓国でも存在しているのだろう。暗黙の了解として……『財閥とそれ以外』という上下関係が。
「──何なのよ……」
私は本当に凄い人に嫌われて、凄い人に今からドコかで何かをされようとしてるんだ。
涙で潤む視界、真っ白の腕でアイメイクが取れるのも気にせずに拭いた。
そして──目に入る『00:05』の文字。
「ソン……テヒョン」
出てくれたんだ。