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シャネルを着た悪魔
第9章 ☆CHANEL NO9☆
「何度も言うが俺は昨年の韓国内財閥資産ランキング四位のアート財閥の長男なんだ。」

「例え俺が人を牽き殺したとしても──証拠が出たとしても──何も無かったかの様に『過去を消す』事は簡単なんだよ」


地面に引っ付いている私の顔は、上から見下ろす不細工な男にピントが合った。

ああ、何て醜い顔をしているんだろう。

目が小さいとか、鼻が低いとか、そういった事じゃない。内面から出てくる不細工さ、だ。これが一番厄介な事をアパレルで働いていた私はよく知ってる。

「じゃあ」

「じゃあ、何だ?」



「──じゃあ、私を殺せばイイじゃない。みんなが見てる所では、こうやって髪持って引きずり回す事しか出来ないんでしょ」

「何が『もみ消せる』よ。何が『過去は消せる』よ。」



「本当にそう思ってるなら、今から何しようとしてるのか知らないけど──その事を何十人、何百人が見てる此処でやってみたらいいじゃない!」

「この根性無し」

「この──ゲス野郎!」


「くたばれクズ!」


俗に言うFワードをフル活用した。こんな言葉──『パリより愛を込めて』でもなかなか聞けるものじゃない。

こっちで言うVシネ位のマイナー映画でないと、放送出来ない様な内容だ。


今の今まで──こんな言葉を誰かに使った事は無かった。



「──てめえっ。調子乗ってんじゃねえぞ!!」

私にとっては運が悪い、でも彼にとっては運が良い。

片手を伸ばして届く距離の小さなテーブルには、もう中身は空っぽになっているアルマンドのシャンパンが有った。


大きく大きく腕を振り翳す。

さすがに周りの女性の叫び声が聞こえた。


「俺の出世街道を狂わせやがって──」

「俺の親父が代表を務める『アート財閥』にヒビ入れる様な事しやがって──」


「それでもその態度か」


「──じゃあ、おめえの願い通り、ここで……してやるよ」


近付いてくるアルマンドも、走って来る警備員も、全てがスローモーションに見えた。


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