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シャネルを着た悪魔
第9章 ☆CHANEL NO9☆
────パリンッ
高い音が、無音の此処・クラブBURNに響く。
「っ、クソ野郎!」
彼が叫んだのは韓国語だった。股間を抑えながら、割れたアルマンドの破片を集め私に向って投げつけてくる。
「──良い加減にしてよ!」
自分の事を運動神経は悪い方だと思っていた。
中学も高校も体育の成績はいつも2とかだったし、刑事でも無いからこういう危険な場面というものに出くわした事が無い。
だけど──人間の防衛本能というのは不思議なもので、無意識に足を曲げヒールを脱ぎ彼の股間に投げつけていたのだ。
「テメエが良い加減にしろや!」
大きな破片が私の左頬をかすめる。
スーッと血が流れていくのが自分でもわかった。
「汚え顔しやがって。でも、さすが日本人だ。そういう顔がよく似合うじゃねえか」
「──。」
歯を食いしばる。
警備員に両腕を抑えられたウンサンは、これでもかと云う位に暴れていた。
「……。」
「私は──」
DJはドコに行ったの?私達の事を見てるんだろうか。
ロシア訛りの英語はアルマンドが割れる音よりも小さいが、きっと周りの人には聞こえているだろう。コイツにも──。私の事をこうなるまで助けようとしなかった警備員二人にも。
「確かに日本人よ。そして日本と韓国の間に、未だ解決できていない歴史問題があるのも事実。」
「でもね、それに関わっていない普通の日本人が旅行や留学で、韓国に足を踏み入れる事は、顔をケガさせられる位、ダメな事なの?」
「貴方たち、分かってるんでしょ?」
「日本人が嫌いでも何でも良い。だけど日本人全員が土下座して謝罪するなんて不可能なのよ。これは政府間の問題なの。」
「政府が仲悪いからと云って、これからの『世界』を担っていく私達までもが恨み合っていかないとダメなの?」
「ああ!?誰がそんな事言った!?おめえが日本人のクセに俺の格を知らねえまま「それなら話はもっと簡単でしょ」
「──私は自分で稼いで、自分の力で成人してから今まで生きてきた。自分のお給料の中から大学の奨学金も返してる」
「分かる?私は自立してるの」
「貴方みたいに──生まれてから今まで親の資産で生活してきた様な……」
「──自分で稼いだ事も無いガキが偉そうに『格』とか『歴史問題』とか語ってんじゃないわよ!胸糞悪い!」