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シャネルを着た悪魔
第10章 ☆CHANEL NO10☆
テレビを付けようとしない私と彼。
この無音の時間こそが今の二人には大事な事をよく知ってるからだろう。
「で、何の話をする?」
「お前はサファイアの話と俺の母親の話どっちを聞きたい?」
「お母さんの話、かな」
会長の話は何度か聞いた事があったけど──母親の話は聞いた事がなかった。
美人だったとか優しかった、とか小学生の感想文みたいな事しか言われた事がないのだ。
「俺のオンマが日本人とのハーフだった事は知ってるだろう。」
「うん。」
彼の作ってくれたハイボールは凄く美味しい。
濃い事もなく、薄い事もなく……。この時間に一杯飲むのに相応しいモノ。
「例えばロッテ財閥なんかは日本の血が入ってるけど戸籍上の帝国は韓国の血しか入ってない。」
「へえ。」
「噂ではユダヤとか言われてるけど辿って確かな部分では韓国の血しかないんだよ。」
「ユダヤって、それはあれでしょ。商才あるから言われてるだけでしょ」
「そういう見方も出来るな。」
「俺の母親は生きてたら──もう54歳になる」
「やっぱり、そうなんだ」
どことなく予想してた答えだった。
だって彼のお母さんが生きていたら──
きっと彼は私に『料理もマナーもあの人から教えて貰え』と言うだろうし、どこかにディナーに行く時もお母さんの事を誘うと思う。
身内には異常に優しいのが彼の特徴だ。
疎遠になっているのは、帝国グループの会長とその一族、なんだから、テヒョンの母親は関係ない。
だからこその私の『女の勘』だった。
「俺の親父と出会ったのは、オンマが20歳の時だったらしい。フランスに留学に行ってたあの人は日本料理屋さんでバイトをしてた」
「へえ。フランス、かあ。お洒落な事してた人だったんだね」
「まあ、俺の祖父母に当たる人達は日本にパチンコを10店舗くらいは持ってたらしいし、娘に投資する金には困ってなかったんだろ」
「ふうん……。それで?」
「で、そこにたまたま親父と、その時の帝国の会長──つまり、俺の韓国の『おじいちゃん』も来てた。フランス語と日本語、そして英語が堪能な彼女は次の日、一日だけ仕事関係の通訳を頼まれたそうだ」
「凄い」
「ああ。本当、上手く言えねえけど『神の悪戯』ってやつに近い出会い方だと思う」