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シャネルを着た悪魔
第10章 ☆CHANEL NO10☆
「はいはい、買い取りかね」
白髪が増えているけど、優しそうな顔立ちは変わっていない。この街並みの様に──。
「おじさん」
「……」
「──スターサファイアを戻しに来ました」
「君」
たった一言だけだった。
でも”感無量”という言葉がよく似合う表情をしている。
「思ったより早かったね」
「はい。どん底から這い上がるの、そんなに時間いりませんでしたよ」
上から下を見る様に私の格好を見た彼は、何となく言いたい事を理解したのだろう。小さく微笑むと店内の一番端にある古びた金庫から、黒色のジュエリーボックスを取りだした。
「さすがに、これを妻に見せたら驚いてたよ。どうしてウチにってね」
「はは。」
埃が、ほんの少しだけ被っていた。
でもそれが逆に嬉しい私。戻ってくる事を信じてくれてたからこそ、日に何度も手にする様な事はしなかったんだと思う。
バッグの中から茶封筒を取り出して、指輪と引き換えに机の上に置いた。
「50万です。あの時お貸し頂いた──」
「………確かに丁度だね。じゃあ、僕もこのスターサファイアとそろそろお別れだな」
「──っ」
箱を開けると、そこには大事に大事にしていたキラキラと光る孤高の宝石。
「君が早く表面に行ってくれたみたいで良かったよ」