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シャネルを着た悪魔
第10章 ☆CHANEL NO10☆
ああ、そういえば言っていた。人生の悪も良もコインの表裏だと。
「私、本当に感謝してるんです。あの時のあのお金が無ければ──今の私は無いから」
「何を言ってるんだ。質預かりなんだからこの資産になる指輪をくれた人に感謝すべきだろう。僕じゃないさ」
「いや、おじさん──貴方なんです。」
「私ね、今凄く幸せなんです。海外に住んでるんですけど、慣れない生活に泣き喚いた事も有ったし死のうと思った事もあった」
「でも自分を騙して耐え抜こうとした結果──前よりも幸せになっちゃったんです」
ボックスを返して、指輪を付ける。
少し痩せたからだろう。以前は入らなかった中指にスッとスターサファイアが輝く。
「しかも、あの時にここで真実に気付けたから行動できる力が湧いた」
「本当に此処は──私の原点と言っても過言じゃないです」
「はは、こんな小さい質屋をそこまで言ってくれるなんて僕も幸せなもんだよ」
「ずっと鑑定師をしてるとね色々な人に出会うんだ」
「初めから偽物と分かっているのに『あわよくば』を狙って、高級時計を持ってくる様な人も居れば──以前の君みたいにどうしようも無くなって、本当は売りたくない資産を持ってくる人も見てきた」
「顔を見て分かったよ。君は偽物じゃないってね」
「偽物じゃない、ですか?」
「ああ。偽物を付ける人間は、その人間までもが偽物になってしまうんだ。『これ偽物なんだ』と言えるタマならまだしも、そんな事を出来ない人間は見てるだけで笑いそうになる位小さいヤツだ」
「……。」
そういえば、さっき乗ってきた新幹線でもそうだった。
どうやら羽田空港に行きたいらしい若者が韓国で偽物を買おう!と意気込んでたのだ。
グリーン車に乗っていて、シャツはザノッティの新作だったけど──。それさえも『偽物』に見えてしまったのだから、このおじさんの言う事は理解が出来る。
「でも君は偽物じゃなかった。『本物』に拘ってた」
「そして──そのスターサファイアだ。僕の目は狂ってなかっただろう?」
「はい、それはもう勿論」