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シャネルを着た悪魔
第11章 ☆CHANEL NO11☆
「じゃ、行ってくるから」
「忘れ物無いの?」
朝の9時には関空に着かないといけない。妹がダルそうな顔で運転席に座ってくれているプリウスを一度チラリと見てから母親に言った。
「ねえ、あのハリーウィンストンの時計さ、絶対にアイツにあげないでよ」
「何でよ」
「アイツには私が自分で何か買ってやるから」
「ママには過去の男から貰った”要らない高級品”で充分やってこと?」
ヒールを履いて、スーツケースを持った。
お母さんらしい言葉に思わず口角が上がる。
「違うよ。あの子は別やん。……若いがゆえに男に貢がせる人生を歩ませたくない」
「散々、家やら車やら貢がせてたアンタがいきなり何言い出すん」
うちの家族は全員喫煙者だ。
リョウも吸っていたアイコスと同じ色の電子煙草を持ちながら、彼女が小バカにした様に言った。
「だから、よ」
「本当に大切なのは内面の伴っていない外見じゃなくて、装飾品じゃなくて──見た目と内面が伴っている事そのものだと気付いたの。」
「そして、そんな人間の武器になるのが『本物で質の良いモノ』よ。」
「それがシャネルでもノーブランドでも良い。本物を身に着ける事で、その人はより高い戦闘力を得る事になる」
「つまりアンタは持ち物全ては”アクセサリー”であるって言いたいの」
「そう。それだけに拘り続けたら人間はいつか腐ってゆくもの。」
「でもそれを武器として考えた時──女は一段と成長出来ると思う」
ヒラヒラと手を振ってから、玄関のドアを閉める。
お母さんが最後──どんな顔をしていたのかは敢えて見なかった。
だけど彼女の事だ、きっと今頃テヒョンと同じ様な意地悪な笑みを浮かべているだろう。