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手を繋ごう~愛憎Ⅱ~(復旧版)
第15章 動き出す思惑
(…あれ?ない…)

一昨日まではそこにちゃんとあったはずなのに。

萌は慌ててケースの中を探していたら

「はい」

と、豊がにこやかにリードを渡して来た。

(ホントは自分で作ったリードの方が良いんだけど…)

吹きやすい形状に作られていない何本かあるリードの箱を見る。

(けど、今は練習中だし、そこまで時間もある訳ではないから…)

と、萌は思い、

「ありがとう!榎本くん!」

と、差し出されたリードを譲り受ける。

そんな時に唯が

「良いなぁ…」

と、ポソッと言うのを聞いてしまい、萌は更に居心地が悪くなる。

何故なら八月に唯から

「榎本くんの事、好きなんだよね」

と、相談を受けていたからである。

その時萌は榎本豊に告白された…と言う事を言っていない。

そんな事を言ってしまえば、唯からどんな風に私は映るのだろう?

そう思うのが怖かったし、もう振ってるし、誠との交際が露見した今、誠と萌の仲は何故か学校内で公認になっている。

恐らく誠の人柄のお陰なんだろう。

そう言った意味で、豊との出来事が過去のものになっている…そう思おうとし、普通に接そうと萌は心掛けていた。

榎本豊から貰ったリードをオーボエのリードボーカルの形状に合わせる為、口で湿らせる。


その様子を見ていた豊は

(フフフ…僕が口に含んだリードを萌が口に含んでる…)

と、恍惚とした気分で見ていた。

昨日、メールで唯から呼び出される前に音楽準備室に忍び込み、萌のオーボエケースからリードを盗み、

(今咥えてるのじゃないないのが残念…)

そんな事を思いながら、リードを咥えながら、

(萌のリードだ…)

と、思わず欲望が膨らみ、自慰行為をしていた。

その最中に時間になり、唯に呼び出された教室に向かったのである。

その際、予備のリードは制服のズボンに入れておいた。

いつでも渡す事が出来るように。

まさかこんな早く、手渡せる時が来るとは思わなかった。
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