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第31章 わたしは女優

『はぁ、はあ、はあっ……………、



あなたが………………、あなたがいけないのよ』



床に倒れ腹に赤い墨汁のようなシミを作っている男を



見下ろし、呟く。



浮気を繰り返す夫を恨み、



子供がいながらにして怒りのあまり刺し殺してしま



った妻ーーーーーー



の役。



他の俳優がどうかは知らないが、



美華は演じながら頭では他の事を考える。



（こんな女馬鹿じゃないの？）



（呆れるわ。浮気に目を瞑れないなら、



端から結婚なんてしなければ良いのに）



（夫を浮気くらいで刺し殺すなんて愚行でしかない



わ）



『あなたがいけないのよ…………、



あんな子に入れ込むから…………』



朦朧としながら呟きを繰り返し、



妻は自分の喉に包丁を向ける。



『許さない…………許さ……………」



台詞はそこで終わる。



妻は自分の喉をも切り裂き、



絶命する。



カメラは最後に妻の左手にある結婚指輪を映す。



血で染まっている。



玄関から『ただいまー！ママ～、



お腹空いたよー』と子供の声がする。



「…………………OK！！！」



監督は叫ぶ。



スタッフがわぁっと拍手をした。



美華は夫役の俳優の手を引き支えるようにして立ち上



った。




今回のドラマ撮影はこれで終了だ。