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愛はいっぱい溢れてる
第1章 夢風鈴
夏休みを利用して、実家に帰っていた。
年老いた父を心配してーー
それは夫についた嘘
本当の理由は、今、夫の顔を見ているのが辛いから。
『もう一人、子供が欲しいな』
ひとり娘の美蘭(みらん)を見て、愛しそうに言う。
美蘭は三歳になり、仕事に復帰する為に保育園に預けていた。
子供は可愛いけど、一日中ずっと子育てで終わる環境に異常なストレスを感じた。
バリバリ働いていた環境が恋しくなった。
髪を振り乱し、子育てで一日が終わってしまう自分にも嫌気がさした。
自分だけが取り残されていって、どんどん見窄らしくなっていくような気もした。
独身の頃は化粧品会社で働き、常に新商品や流行を試せた。
お洒落で流行に敏感だった自分。
我儘だけど、あの頃に戻りたくなった。
丁度、店舗を回り、店のディスプレイや在庫管理などをするエリア担当の募集をかけたと、以前の同僚から話を聞いて、『是非、やってみたい』と願い出たところ、その仕事に就く事が出来、美蘭を預ける保育園も見つかって、とんとん拍子で仕事復帰を出来た。
なのに、そんな矢先に…………不正出血が続き、婦人科を受診する事になった。
最初は、いきなり生活が変わったから、まだ体がついていかないのだろう。
疲労感やストレスかな?
月経が狂う事なんて、珍しい事ではないとネットの情報を鵜呑みにし、受診をすれば安心感も貰える、などと甘く考えていた。
でも、それは…………私が考えている以上、深刻な事だった。
『今、子宮を摘出すれば、この先のリスクを免れ、延命にも繋がる。
初期に見つかったという事は、不幸中の幸いだったと思います』
と、淡々とした口調で担当医からの宣告された。
一瞬で私は闇に堕ちていった。