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快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体
第173章 その男の名はソンヒョク
男は手にはめていたグローブを外し、達也と対峙した。そのグローブはボクシング用のではなく、総合格闘技用の相手を掴む事が出来るオープンフィンガーグローブだった。

切れ長の一重まぶたに精悍な顔つき。鼻筋は少し左に曲がっていた。
身長は達也よりやや低いが、上半身は鍛えぬかれた筋肉に覆われ、ボディビルダーのようなゴツい筋肉というよりは、格闘家の筋肉をしている。
加えて両耳は潰れてカリフラワー状態だ、これは打撃だけではなく、柔道やレスリング、柔術等の寝技経験者特有の耳をしている。

「こんなことに日本人が来るとはな。随分と物好きなヤツだな」

流暢は日本語で男は話してきた。

「今のはテコンドーか?」

朝鮮半島発祥の格闘技、テコンドー。華麗な足技で、足のボクシングとも言われる。

「テコンドーをベースにした総合格闘技だ」

やっぱりそうか、達也は男の潰れた耳を見て寝技も出来る優れた格闘家だと見抜いた。

「でも何でこんなとこでアンタ1人でサンドバッグ叩いてたんだ?ここはジムか?」

ジムにしては薄暗いし、トレーニング器具は何もない、しかもこの男1人だけがサンドバッグを叩いていた。

「そんなことよりお前も格闘技経験者だろ?もし良かったらスパーリングしてみないか?」

その男の言うとおり、達也も格闘技の経験者だった。

小学校低学年の時、近所にあった日本拳法という道場に通い、中学に上がった頃は、大の大人でも歯が立たない程の腕前になった。

日本拳法は自衛隊徒手格闘術や警察の逮捕術としても使われ、柔術に当て身を加えた総合格闘術として知られている。

「いいけど、ルールは?」

側にあったオープンフィンガーグローブをはめながら達也はスパーリング内容を聞いた。

「一本獲ったら勝ちってのはどうだ?」

男は再度オープンフィンガーグローブをはめ、リングに上がった。

(この雰囲気、ただの格闘技経験者じゃねえな)

達也は男の醸し出す雰囲気が格闘家というより、殺し屋のような不気味なオーラを纏っていた。

「その前に、アンタ名前は?オレは小島っていうんだが」

「オレはソンヒョク」

男はソンヒョクと名乗った。

「じゃあ、ソンヒョク。タップしたらすぐに技を解けよ。何せ久しぶりなんだからな、オレは」

「…解った。じゃあ始めよう」

誰もいない中でのリングでスパーリングが始まった。

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