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性用占精術 秘密のセックス鑑定
第9章 サジタリアスの女 飛翔の章
「審査員だった写真家の黒井史郎さんが直接電話をくれて……。弟子にならないかって……」

 黒井史郎と言えば日本ではもっとも有名な写真家だ。
その彼が弟子にと言うならば、若菜の将来は成功に決まっている。だが、しかし。

「いい……話じゃないか」

「ん。すごく……すごくいい話。黒井先生の被写体は世界中の自然だから、私が最も敬愛する写真家でもあるのよね」

 黒井史郎の弟子になると言うことは、将来の約束と共に彼と世界中を旅し、一か所にとどまることなく活動するということだ。
つまり僕とこの関係を続けることは無理だろう。

「返事はしてないの?」
「少し待ってと言ってあるの。黒井先生はじっくりで良いって。自分の内なるフィーリングに従うようにって」


 僕はゆっくりと呼吸し、自分自身を落ち着かせてから言葉を発した。

「行っておいで」

 ハッと顔を上げ若菜はまっすぐ僕を見つめる。

「行ったら、もう……こんな風に……会えない」

「うん。わかってる。でも若菜にとって最高のチャンスだし、世界中を旅することはとても合ってるよ」


「あなたと……離れたくないの……」

 ハラハラと涙を落としながら突っ立っている彼女を、そっと抱きしめる。

「僕だって離れたくない。でも……君の魅力は常に活動していることで生まれるんだよ」

「ううううううっ」


 ただの別れではない。身体の、魂の一部を持っていかれそうな痛みを感じた。
しかし、彼女の幸せは僕とここに一緒に居ることではないだろう。
 そして僕も彼女について行けはしないだろう。


 初めて肉体を重ねずに、抱き合い存在を確かめ合った。
白々と夜が明け、風がやみ静寂の訪れまで何もせず何も話さず、ストーブの火を二人で見つめる。

「あなたはセコイア杉の木みたい」
「アメリカには世界一高いその木があるんだろう?」
「うん」

「見て撮っておいでよ」
「ありがとう」

 疲れたら帰っておいでと言う言葉はかけずに別れた。

 前を見て歩き始めた若菜は振り返ることなく、山道を降りていく。
彼女は軽やかに成功の道を上っていくはずだ。


 僕はここで彼女の成功を見守る。
樹木の様に。
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