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性用占精術 秘密のセックス鑑定
第4章 キャンサーの女 母性の章
『カミノキ』と白抜きされた紺の暖簾をくぐり、ガラッと引き戸を開けると優しいだしの香りが漂った。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは」

 白木のカウンターに座ると、白い割烹着を着た女将の蟹江優香が水を運んできた。

「緋月さん、いらっしゃい」

 黒い髪を一つにまとめ、たれ目がちな黒い目が昔の母親を思わせ安心させる。こういう印象の女性ではあるが、実際はまだ三十代前半で僕よりも一回り以上年下だ。

「えっと。とりあえず、牛筋の煮込みと生中もらえるかな」
「はあい」

 こじんまりとしているこの小料理屋は元々彼女の母親が始めたものらしい。昔の厳めしいつくりのテーブルが年季と味わいを感じさせる。

「どうぞ」

 熱々の煮込みとよく冷えたビールが届く。そしてもう一つ、野菜の煮しめが入った小鉢が置かれた。

「お野菜も食べないとだめですよ」
「え、ああ。ありがとうございます」

 本当に母親のような振る舞いに、少し照れ臭くなったが有り難く頂戴した。この店を知ってから、週に一度は通い顔なじみになった。
僕は料理がまあまあ好きな方で自分でもよく作るが、この女将の料理は心まで温める。特に何か会話があるわけではないが、軽く食事をし安らぎほっとして家路につくのが、ここ半年ほどの日課になっている。

「ごちそうさま」
「もうお帰りですか」
「また来ます」

 身も心も温もりに包まれて、店を後にした。
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