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お兄ちゃんといっしょ
第10章 第10章
「自分ウケより男ウケを大事にしとけって。
 お前は確かにお洒落だし、大人っぽいカジュアルなカッコーのが似合う。
 けど、あんま大人びて見えるから、小学生って信じてもらえない可能性がある。
 …それ着て、てきとーにろりろりしとけばさ、オッサン気合い入ってっから、ちょっとくらい小遣い弾んでくれるかもしんないよ」


 …それとも?


「やっぱ、ばあちゃんちに帰る?やめるなら今だよ?」


 言いながら。
 お兄ちゃんはまた、運転席から身を乗り出して私にキスをした。
 唇と唇がくっつくだけの、子供のキス。


 なにかの魔法をかけられたみたいに、不思議な力で私をいとも簡単に納得させる、お兄ちゃんの、種も仕掛けもない、子供のキス。
 覚悟はとっくに、最初のキスを受け入れたときから、できてた。



「…お兄ちゃん。
 今日だけだよね?
 今日頑張ったら、もう、二度としなくていいんだよね?」


 処女でさえなくなったら。 
 あとはずっと、
 お兄ちゃん一人だけと、エッチできるんだよね?


 …不安な涙がおっこちる。
 今までたくさんオナニーしてきた。
 でも、知らない男に実際に身体を弄くられたいって考えたことなんかなかった。
 ほんとは、めっちゃ怖い。
 逃げたい。
 
 でも。
 おばあちゃんちに帰って。
 息が苦しくなるのだけは。
 それだけは、やだ。


「不甲斐ない兄ちゃんのために、無理させてごめんな」


 私の涙を、お兄ちゃんの指が優しく拭い取る。


「約束するって。絶対、今日限り」


 …そろそろ時間だわ。
 お兄ちゃんが呟く。
 私はワンピース片手にドアを開けた。


「あ、そうだ」


 歩き出す私の背中に、お兄ちゃんの声が響いた。


「絶対にキスだけはさせんなよ」


 立ち止まる。


「それは、俺のもんだからな」

 
 振り向いたと同時に助手席のドアが締まり、お兄ちゃんの車は、駅とは反対方向へ風のように走り去って行った。




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