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お兄ちゃんといっしょ
第11章 第11章
 …いっそ、逃げ出してしまおうか。


 誰かに囁かれたかのように、突如として悪知恵が働く。


 …ベッドからドアまで、5メートルもないだろう。
 入室した際、ひふみっくすは鍵をかけなかった。


 今ならひふみっくすは寝転んでいるから、隙を見て全速力で駆け出せば、逃げ切れるかも知れない。


 だって、ひふみっくすは上半身裸なのだ。


 本来のチェックイン時間がまだということは、周りの部屋はまだ清掃中…清掃員がいる可能性が高い。
 私を追いかけて飛び出してきたところで、周りの目を気にしてフロントまで深追いすることはないだろう。


 生唾をごくりと飲み込む。
 心臓の音が全身に響いてる。
 お金はもう、もらった。
 お金は…。


 楽しそうに私を見つめるひふみっくすを見つめ返しながら、ゆっくり片足を床につける。


 ベッドが軋む。
 ゆっくり、もう片方の足を下ろしていく。
 ゆっくりと…


 その時、シーツとフレアスカートが擦れ、かさかさと音が鳴った。
 ポケットの中で、さっきひふみっくすから受け取った二枚のお札が擦れたのだ。


 その音はまるで、私が前まで肌身はなさず持ち歩いていた紙袋の音のようだった。


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