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お兄ちゃんといっしょ
第29章 巻き戻し
 ―――奈々はいいよなぁ、泣けるんだから。俺の涙は一体何処行っちゃったのかなぁ?四次元かな?



 お兄ちゃんの言葉をひとつひとつ口の中で反芻している自分がいる。
 もう二度とフリースクールに通うことはないな、と私はタイセイんちからの帰り道、晴れ晴れした気持ちで思った。



 駅の構内にあるゴミ箱に荷物をリュックごと捨てた。MA-1のポケットに財布とスマホだけ突っ込んで、ホームに滑り込んできた普通電車に乗った。


 ラッシュ時だというのに車内は座れるくらい空いていて、だから私は足を組んで座席に着いた。
 スマホを取り出し、片っ端からブロック削除していく。



 決意することは難しいことじゃなかったんだなって、顔を上げてふと思った。
 ドアが締まり、ガコンガコンとゆっくり電車が動き出す。



 ――誰だっていいなんてない。
 私にはお兄ちゃんしかいない。
 私はお兄ちゃんが好き…。


 性病検査についてきてくれたタイセイがわたしにエッチが好きかって聞いてきたとき。
 その質問が私の人生の全てだと言われている気がした。


 窓ガラスに映る自分の姿…
 お兄ちゃんにそっくりだと言われた自分の顔を紺色の景色の中に見つめながら、どうしてこんなに遠回りをしたんだろう、と不思議に思うくらい、心が晴れ晴れとしていた。



 まるで初めてお兄ちゃんの職場を訪れたときと同じように…
 私はまた、ドキドキしてしまっていた。
 あの時とはまるで違う結末が待っているんだと、とっくに知っていたはずなのに。



 もう一度お兄ちゃんに会いに行きたい。
 自分はいま生きてるんだと、強く実感した。






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