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囚われの城
第3章 屋敷のしきたり
でも、どうしてだろう。
龍の優しい笑顔を見る度、その笑顔が自分に向いていないと 思うと悲しい。
龍の大きな手で撫でられる頭が、自分の頭でないことが切な い。
落ち込むサラを龍が一生懸命に励ますのを見ると、胸が苦し い。
サラが自分の知らない時代の龍を知っていると思うと、胸が 痛い。
「ごめんな、サラ」
「……龍」
龍はサラを引き寄せ、キスをした。
瑠菜はそれ以上見たくなくて、その場を去った。
ミカンが言ってたじゃないか。
龍はここにいるメイドを教育した人間。
自分に教えてくれたことを、他の人に教えるのは学校の先生と同じこと。
龍は優しい。
でも、その優しさは独り占めすることができない。
「あたし、何やってるんだろ……」
椅子やら机が置かれた物置部屋の隅で、瑠菜は膝を抱えて小さくなっていた。
20代前半の、大人な色気や優しさのある龍。
いつしか龍に心を許し、この生活が楽しいとさえ思うようになっていた。
それは、龍のことが好き……だから?
ここに来るまでは、瑠菜は同級生の好きな人のことを想わない夜はなかった。
でも最近は、龍のことばかり。
「おや?先客がいますね」
「あっ!ご、ごめんなさい!」
薄暗い物置部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。
瑠菜は驚き部屋を出ようとすると、男に腕を掴まれた。
「こんにちわ。お久しぶりですね」
「あなたは……」
「日向です。その節は挨拶もしないままで失礼しました」
日向は薄く笑いながら、瑠菜に頭を下げた。
切れ長の目から覗く瞳は、鋭く瑠菜を見ていた。
柔らかい言葉遣いや表情なのだが、瑠菜はどこかで日向を警戒している。
「その顔は、誰かに恋い焦がれているように見えますが?」
「っ?!いっいえ、違います。あたしは失礼します」
「……龍には、惚れないほうがいい」