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Quattro stagioni
第11章 スタンダールの幸福 Ⅵ

もういい。ずるくなってやる。大げさに俯いて、やっぱりわたしのことなんとも思ってないんですね、と泣き真似。最初は彼を挑発したいだけの嘘だったのにあからさまにしゃくり上げている内にぽろぽろと本当の涙が溢れだしてくる。まだ、中原さんの心には都筑さんがいるのだと思ってしまった所為だ。

「…泣くなよ」
「だって…、」
「あのなぁ、お前のことなんとも思ってないから渋ってるんじゃねえんだ。ちゃんと、大事にしてやりたいからだって分かってくれ」

大きな手がわたしの髪に触れる。たまらず、ぎゅっとしがみついた。嫌だ。帰って欲しくない。ぐずぐずとすすり泣いて、額を彼の身体に擦りつける。

「あー!くそ!」

力任せに身体を引き剥がされる。髪触れていた手は今度は頬に。涙で滲む視界。ちょっと怒ったような中原さんの顔が近づいてくる。荒っぽく、唇が重なった。

「…もっと、」

離れていこうとした唇は声なく、うるせえ、とわなないて、再びわたしの唇に触れた。角度を変えて、何度も何度も、触れては離れる。

部屋に彼を誘ってからもわたしはキスをねだった。慌ただしくサンダルを脱ぎ捨てて、もつれ合いながら短い廊下を抜けた。部屋の灯りなんかいらない。探り探りでベッドに倒れ込む。

わたしに覆い被さる中原さんの息は乱れている。ごくりと唾を飲む音。恐々とワンピースをたくし上げていく。素肌を滑るかさついた手のひら。こそばゆさに身を固くすると、頬にキスをしてくれた。

躊躇いを感じさせながらも優しく乳房に触れる。ただ、それだけなのにぞくりと全身が粟立った。

「な、中原さん…」
「…なんだ」
「な、名前…呼んでください」

彼の二の腕に触れながら言う。暗闇の中でも、中原さんが目を見開いたのが分かる。

「…み、づき」
「……はい」
「みづき、」

呼んでくれたかと思うと中原さんの手は乳房から離れた。え、と呟けば彼は小さく、わるい、と言って起き上がった。興奮と混乱がぐちゃぐちゃに混ざり合う。わたしもゆっくりと起き上がると、力強く抱き締めてくれた。

「…悪い、今日は帰らせてくれ」
「……え?」

唖然とするわたしの身体を離すと、そっと髪を撫でて立ち上がる。なだれ込んだ勢いのまま放り出してあったクラッチを拾あげる気配。待ってください、と声をかけても中原さんは振り返ることもなく出ていった。
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