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Quattro stagioni
第12章 スタンダールの幸福 Ⅶ♡
休日には行く宛てもなく転がしてきたドラッグスター。後ろに人を乗せるのは1年ぶりだ。今度、ヘルメットは新しい物を買っておこう。ふわふわとはためくであろう短いスカートで乗せるのは憚られ、適当なジャージをその下に穿かせるとなんとも間抜けな姿になった。本人も甚く不満なようだったが、穿かなければ乗せないと言うと渋々納得した。
1時間程度走らせて、海沿いの街へ辿り着いた。いそいそとジャージを脱ぐ姿を見ていると、エッチ、と顔を顰める。散々誘ってきたのはそっちだろと思うわけだが、程よく肉のついた足は中々に艶めかしいと思ってみていたのは事実だった。
「手、繋ぎましょうよ」
「……恥ずかしいだろ」
「けち!」
デニムのポケットに両手をつっこめば、ぷくりと頬を膨らませる。意地の悪いことをしたときのこの顔は結構、癖になる。
強引に腕を組むことで満足したらしい美月とゆっくりと歩いていく。下肢の違和感からは必死に目を背けた。美月はなんともなさそうなのは若さかと思うと恨めしい。
「浩志さんの部屋、本棚大きいですよね」
「なんだよ、急に」
「いっぱい本読んでるんですか?」
「ああ、まあ、天気悪い日とかは、」
「じゃあ、スタンダールって作家、知ってますか?」
確か、1800年代のフランスの作家だったか。聞いたことはあっても、読んだことはなかった。それを伝えると美月は意外そうな顔をする。そもそも俺は現代もののミステリーや警察小説しか読まない。その辺は都筑と一緒だった。あ、そういやあいつ、俺の本持ったままじゃなかったか。
「…その、スタンダールがどうした」
「恋愛のね、名言を遺しているんですよ」
「例えば?」
「わたしのお気に入りは『恋愛が与えうる最大の幸福は、愛する人の手をはじめて握ることである』っていうやつです」
ね、だから、と組んだ腕を離し、手のひらを差し出す。