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Quattro stagioni
第9章 スタンダールの幸福 Ⅳ
ぱちん。頭の中でなにかが嵌ったような音がする。そうか、そうだったんだ。だから、中原さんはあんなに寂しそうに、苦しそうに都筑さんを見ていたんだ。
立ち止まったわたしと有希には気付かぬまま、手を繋いで過ぎ去っていくふたり。藤さんと都筑さん。どう見たって恋人同士だ。会社に居るとき、彼らは全くと言っていい程喋らないから全然気付かなかった。
「美月?え、なんで泣いて…、」
「わ、わかんない……」
もし、わたしだったら、と思うと目尻から熱い涙が溢れだしていた。もしもわたしに凄く好きな人が居たとして、その人が自分の知っている人と付き合っていて、自分の気持ちが届かなかったら。
そんな経験したことなんてないのに、胸がぎゅうっと押しつぶされたみたいに苦しくなった。きっと、中原さんと都筑さんは凄く仲が良かったのだろうと思う。仲が良かったからこそ、彼は都筑さんに気持ちを伝えることが出来なかったのだろうか。
想像することしか出来ないけれど、そうすればするほど、わたしの口からは嗚咽が漏れていく。
「どうしたの?ほら、顔拭いて。帰るよ」
「う、うん…」
有希がハンカチを渡してくれる。以前、彼女の誕生日にわたしが贈ったものだった。ぐずぐずと洟を啜りながら溢れ出す涙を拭った。
気付かなければ良かった。気付きたくなんてなかった。どんな顔をして会社に行けばいいのだろう。次に会社に行ったとき、中原さんの顔を見たらまた泣いてしまうかもしれない。