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Quattro stagioni
第9章 スタンダールの幸福 Ⅳ

部屋中を見て回ったわけではないから断言はできないけれど、女性の影は感じなかった。むう、と黙り込んだわたしに、有希はほんとになにもなかったの?と聞く。なにも、なかった。中原さんに確認した訳ではないので、確かではないといえばそうだ。だけど、衣服に乱れはなかったし、そもそも中原さんが酔ったわたしになにかするような人だとは思えない。

「…わたし、はじめて男の人の寝顔が泣いているように見えた」
「もしかして、美月、その人のこと気になってんの?」
「えっ…な、なんで…」
「だって、なんか今の美月、爽子みたいな顔してる」

爽子みたいな顔?お酒の席で、恋する乙女だとわたし達がからかうときのようなはにかんだ顔だろうか。まさか。まだ、中原さんがどういう人なのかもよく分かっていないし、それに仲が良くなっているとは言い難い。

「違うよ。まだ、全然そんなんじゃない」
「まだ、ってことはこの先そうなるかもしれないね」
「わ、わかんないよそんなの。それに、中原さんは…」
「だからさ、きっとそれ、美月の思い込みだって。いいな、社内恋愛。会社行くの楽しくなっちゃうね」
「辞めてよ、もう」

美月が恋してるー、と茶化してくる有希をいなしながら食事を終える。店を出た後、彼女はすぐ帰りたがったけれど公園に行こうよとごねて、結局付き合ってもらうことになった。こういうとき、有希はいつもわたしに付き合ってくれる。

日中は煩い蝉の鳴き声もなく、聞こえるのは風が立てる木々のざわめきと、芝を踏むわたし達の小さな足音。遠くから微かに人の話し声も聞こえる。静けさに包まれてのんびりと公園を歩いた。もういいでしょ、と有希が痺れを切らした頃にスマホで時間を確認すると21時過ぎだった。そうだね、と応じて駅に向かって歩き出す。

「…あ、」
「どったの?」

車道を挟んでわたし達とは反対の歩道を進む見覚えのある姿に、つい、声をあげて足を止めてしまった。有希の視線がわたしのそれを追う。すらりと背の高い男女。わぁ、と惚けた有希の声。途端に胸がざわざわと騒がしくなった。

進行方向が逆な上に、公園とは違って街灯がたくさんあるから表情まで良く見える。手を繋いでいることも。ごくりと喉を鳴らしたまま動かないわたしに、有希が訝しげに知り合い?と問うてくる。

「か、会社の…」
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