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仮初めの恋人
第2章 私のフィアンセ~摂津凪子の依頼~
「そんなことより、凪子。私に花嫁姿見せたいとか考えて無理に焦っちゃ駄目だからね」
「えっ……」

突然告げられたその言葉に反応して、赤い目をしたまま母に顔を向ける。

「な、なに……お母さん的には幸二朗は駄目って感じ?」

引き攣っててもいい。とにかく笑うしかなかった。

母は肯定も否定もせず、口を結んだまま慈しむ目をしてゆっくりと小さく首を横に振った。

「凪子、もう電車来るよ」

話を聞いていたのか、空気を察したのか、静かに近付いてきた幸二朗が声を掛けてくる。

「それじゃあね、お母さん」
「すいません。お世話になりました」

二人が頭を下げると、それより深く下げないとと競うように時子は腰を曲げて頭を下げた。

「こちらこそろくなお構いも出来ませんで……幸二朗さん、わざわざこんなとこまでありがとうございました」

そこまで言うと頭を上げ、時子は視線を幸二朗と交わらせる。

「こんな娘ですけど、よろしくお願いします」

それだけ言うとまた深く頭を下げた。

幸二朗も何か返しながら頭を下げていたが、凪子は嗚咽を堪えるだけで精一杯で、二人の会話は聞こえてこなかった。
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