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第3章 初めての彼氏～郁野真莉の依頼～

作品について訊かれてうんざりするというのはこの小説の定番の展開だ。

秋の陽射しが木々の枝葉の間から射し込み、その通りをたくさんの人が歩いて行く。

ルノワールのムーラン・ド・ラ・ギャレットを描いた作品のように淡くて美しい瞬間にいるような気分だった。
今この瞬間が幸せなんだと感じ、紅茶を飲む振りをして秋希の顔をゆっくりと眺める。

「視線で擽られてるみたいだな」

気付かない振りをしていた彼が、まるでデッサンのモデルのように視線をよそに向けて動かないまま、眩しそうに目を細めて照れ笑いを浮かべた。
その横顔は本当に描きたくなるほど、とても綺麗だった。

テーブルの下できゅっと手を握られ、不意に視線を合わせてくる。
真莉はビクッと震えてから彼の体温を確かめるような慎重さでその手を握り返していた。