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囚われの天使たち
第1章 拉致(1)

今日の宿題は算数か。
そう考えただけで溜息が出る。
横澤奈津子は下校途中の道を歩きながら、家に帰ってからのことを考えていた。
家に帰ったら、まずは宿題をやって、それからテレビを見る。そのあとに夕ご飯を食べて、お母さんの手伝いをして食器を片付け、それが終わったらお父さんに学校であった楽しい出来事を話す。そしてゲームなんかもやったりする。1日1時間までだけど。
算数の宿題は嫌だけど、それさえ終われば楽しいことが待っている。
嫌なのは算数の宿題だけなんだ。そう考えると奈津子の溜息は微笑みに変わった。ひとりで歩いているのだから、笑っていたら変に思われてしまうかもしれない。普通ならおかしなことだけど、今は大丈夫。なぜならこの道は、ビルに挟まれた、人気のない狭い道だからだ。誰かに見られることはない。奈津子は遠慮なく頬を綻ばせていた。
じりじりと照りつける太陽が、奈津子の肌を小麦色に焼く。この暑さから逃れるためにも、早く家に帰りたい。
さあ、早く家に帰って麦茶を飲みながら涼もう。そして宿題を済ませてしまおう。そうすれば楽しいことが待っているんだから。
そう思って、軽快に足をあげて奈津子は足を早めた。
と、その時。後ろから引っ張られた。
首が締まり、喉が潰れるような痛みを覚える。一瞬呼吸が止まり、思わず咳き込む。着ている服の襟ぐりを後ろから引っ張られたのだということは、すぐに分かった。
振り向こうとしたが、それはできなかった。頭の後ろから大きな手が回り込んできて、奈津子の口を塞いだからだ。
「ん……!」

