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囚われの天使たち
第1章 拉致(1)

叫び声さえあげられなかった。奈津子の口を抑える手は大きくて力が強く、頭を回すことさえできない。
奈津子はすぐに、ポケットにしまってあった防犯ブザーを取り出した。だが、その動きを予測されていたかのように、後ろにいる誰かは、もう片方の手で奈津子から防犯ブザーを奪い取って遠くへ放り投げてしまった。
奈津子は暴れた。もうそうするしかなかった。手足に力を込め、自分を抑える2本の腕に必死に抵抗する。しかし暴れることはおろか、少し動くことさえできなかった。2本の腕が、奈津子の体をしっかりと抱え込んでいたからだ。後ろにいるのが誰なのか、首を自由に動かせない奈津子には分からない。それでも、この腕の太さと力の強さから、大人の男だろうということは予想するまでもなく分かった。
不意に、奈津子の口を覆っていた手が、一瞬離れた。
「たす……んんん!」
その一瞬の隙に、奈津子は大声をあげようと思ったが、またすぐに口を覆われてしまった。しかも今度は、ただ覆われたのではなかった。
再び奈津子の口を覆った手には、ハンカチが握られていた。そのハンカチで、今度は口を塞がれたのだった。
ハンカチからは異臭がした。
恐怖と緊張から呼吸の荒くなっていた奈津子は、その異臭を思いきり吸い込んでしまった。
奈津子は意識を失った。

