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僕は、ヱッチな小説を書キてゐゑ
第6章 世界観とキャラクター

コロンブス。新大陸発見を成し遂げた誰もが知っている偉人だ。

彼は商人であり、将軍であり、大提督であり……それよりもっと前は王室お抱えの家庭教師であったこともある。

かの高名なる人物の偉業を讃えぬ者はいない。

そして彼はまた、あの「卵の逸話」でも有名だ。

「新大陸発見は誰にだってできた」と謗(そし)る者たちに、卵を立てることを試みさせ、一人もできなかった後に卵の尻をグシャッとやってみせたコロンブス。

成し遂げられた後は簡単そうに見えることでも、最初にやってみせることがいかに困難か。

そういう教訓として、大航海の時代など遥か遠い昔のこととなった今の時代でも大人たちが子供に聞かせるエピソードだ。

しかし――と、エミルは思う。
コロンブスの卵はそんなことじゃないと。

あのとき……卵を立ててみろ言ったそのとき、彼は考えなかったのだろうか「もし、誰かが卵を立ててしまったら?」と。

そんなことになったら、その後どうするつもりだったのだろう?

いや、考えもしなかったに違いない。

エミルは、自分の偉大さを信じて疑わないコロンブスの、その強固な意志が羨ましかった。自分の他には出来る者などいないというその自信が、彼に新大陸を発見させたのだ。

ワイバーン(飛竜)が高い声で鳴き、目的地に近づいたことを知らせた。その背に騎乗したまま、思いにふけっていた少年騎士は、頬にずっと受けていた風の冷たさに再び気づいた。

グンッという急降下の浮遊感。一瞬、鞍と尻との間に隙間ができる。
エミルは力いっぱい身を伏せると、飛竜のたてがみに顔を埋めた。

空の青。海の青。大地の黒。眼下に迫るかつての新大陸。
その名はムー。これから滅ぼすことになる彼の故郷。

自分を信じてのことではない。揺るがぬ決意もあるはずがない。

しかし、「自分の他に出来る者がいない」という点だけは残念ながら同じだった――あの、稀代の航海王、銀河皇帝コロンブスと。





《パパーンの飛竜騎士 つづく》
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