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霞草
第3章 新天地
他に客はいないようだ。その間の食事は部屋食とのことだった。
僕はしばらくがどの位なのか決めていないことから、週単位で精算して欲しいとお願いした。
下手したら自分の部屋より狭いかもしれないが、掃除の行き届いた畳に横になる。
「自分探しの旅」…偉そうな書き置きを残したが、要は逃げ出しただけだ。挫折と非難と不安から。
しかし、理想の宿を見つけて、ほっとしたのかそのまま寝てしまった。
どのくらい眠っただろうか、腹が減って目が覚めた。
起き上がり窓を開けて、外を見た。
まわりは山に囲まれており、切り開くようにある野原、空気が美味しい。
ここで何かが見つかる訳じゃないが、家族から離れて、自分のことを考えたかった。
医者になる、それ以外の道を考えることもなく、疑いもなく育てられた。
目の前にあるありきたりの自然に囲まれて、もっと色々なことを考えるのにはちょうどよい場所だと思った。
「おっ、起きたか坊主。いやお客さん、昼飯まだだろう。下に降りてこいよ。」
外から声をかけられた。
見下ろすと宿の庭は畑になっており、宿の主らしい男性が野菜の入った籠を持ち、手招きしている。