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霞草
第6章 二人の想い

だから、僕は未だに彼女に自分の名前すら教えていない。
彼女は僕の事を「あなた」としか呼べないのだ。


僕は想いを口にしないと決めた。



僕は、先に食べ終わった。彼女が味わいながら幸せそうに食べているのを横目で見ていた。

小指はまだ結ばれている。

今、言葉に出来ない分、その小指から伝わる彼女の温かさ、優しさに浸っていた。

そして、心の中から溢れる想いを閉じこめるのは困難で、
僕はその葛藤を空いている方の手で、ソフトクリームの包み紙を丸めて、よじって、ごまかしていた。


沈黙が気になり始めて、

「ソフトクリーム、多分コクがあるよね。普通のより甘い、上手く言えないけど、美味しいね。」

と話しかけた。

「うん。とにかく美味しいね。
食べ比べ絶対しようね。
約束だよ。」

彼女の小指に再び力が入る。

「ちゃんと守るよ。」

彼女が食べ終わったので、

「包み紙捨ててくるよ。」

と結んでいた小指をそっと離し、立ち上がって手を広げた。

「うん。ありがとう。」

彼女は広げた手のひらに包み紙を乗せた。

僕はそれを小さく固くなった自分の包み紙と一緒にして捨てた。


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