この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
霞草
第6章 二人の想い
だから、僕は未だに彼女に自分の名前すら教えていない。
彼女は僕の事を「あなた」としか呼べないのだ。
僕は想いを口にしないと決めた。
僕は、先に食べ終わった。彼女が味わいながら幸せそうに食べているのを横目で見ていた。
小指はまだ結ばれている。
今、言葉に出来ない分、その小指から伝わる彼女の温かさ、優しさに浸っていた。
そして、心の中から溢れる想いを閉じこめるのは困難で、
僕はその葛藤を空いている方の手で、ソフトクリームの包み紙を丸めて、よじって、ごまかしていた。
沈黙が気になり始めて、
「ソフトクリーム、多分コクがあるよね。普通のより甘い、上手く言えないけど、美味しいね。」
と話しかけた。
「うん。とにかく美味しいね。
食べ比べ絶対しようね。
約束だよ。」
彼女の小指に再び力が入る。
「ちゃんと守るよ。」
彼女が食べ終わったので、
「包み紙捨ててくるよ。」
と結んでいた小指をそっと離し、立ち上がって手を広げた。
「うん。ありがとう。」
彼女は広げた手のひらに包み紙を乗せた。
僕はそれを小さく固くなった自分の包み紙と一緒にして捨てた。