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霞草
第7章 すれ違い
どんな事情にせよ、仕事も住まいも捨てて、新しい環境に挑んだおじさんを逞しいと思った。
僕にもそんな勇気があればいいのだが…。

「凄いですね。」

「たいしたことじゃないさ。人間いざというときには意外と踏ん張れるもんだよ。」

僕は、おじさんの力強い言葉に、父親の理想像が浮かぶ。
そして、地位と金で威圧的な物言いをする自分の父に、今まで反発しかしていなかったが、案外、大した人間ではないのでは…。

更に、父に怯えて萎縮していた自分は、だいぶ損してしまったと悔しくなった。

僕が黙ってしまったので、

「なんだ、坊主だって大事なものの為に一生懸命になる時がくれば踏ん張れるさ。
今、『自分はこれでいいのか?』って振り返ることができたんだろ?それだけでも儲けもんだ。

何も気付かず、考えずに通りすぎちまったかもしれないのに。

俺はその口さ、ただ大学出て、ただのサラリーマンになって…。

踏ん張りゃ何とかなるって気付いたのは遅かったな。

だが、遅くても、何度でもやり直せばいいんじゃないかな…。」

温かい心強い言葉、この人が父なら良かった。

いや、だから、霞は、心優しい純粋な子に育ったんだな。
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