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霞草
第7章 すれ違い
「綺麗。」
霞の言葉が、しんみりと響きわたる。
山の野原でも見た花たちが、そよ風に吹かれ揺れていて、花は反対側の斜面まで覆い尽くしていた。
宿のある山、牧場、街、その先の田畑、全てが見渡せる。
僕が乗ってきた電車の線路が、かすんで消えるほど遠くまで見える。
その先にある別の街も、山と山の切れ目から見えた。
その向こうに見えないが、その先は、僕の街へと続いているのだろう。
田畑を潤す川の流れ、此処から全てが見渡せる。
霞が言った綺麗以外の言葉は浮かばない。
山からも、街や田畑は見渡せるのだが、線路の切れる先は、他の山の影になっていて見えなかった。
僕は無言のまま、立ち尽くしていたが、霞に手を引かれ、しゃがみこんだ。
明日の見える丘
確かに、今の僕を取り巻く全ての環境が、見渡せた。
答えを期待した自分が、馬鹿だった。
霞との宿の生活、霞の学校があり、忙しないとよぶ街、僕の街に続く線路、全てが見渡せるのに、
僕の明日は見えなかった。
いや、見える全ての中から、僕は、自分の明日に繋がる場所を選ばなければならない。