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霞草
第7章 すれ違い
病院で生活する方が長いかと思うほどだったと言う。
成長につれて体力がついて発作が少なくなる場合もあるらしいが、霞の場合、そんな兆しもなかったようだ。
親として出来る事は、空気の綺麗な所に住まわせること。
そこで、学生時代に馴染みのあったこの街を選び、越してきたそうだ。
霞は幼稚園に上がる前の事で、あまり覚えていないらしいが、兄は小学生で転校し、身寄りも知り合いもいない場所に馴染めなかったとのことで、
大学から東京に行き就職したらしい。
霞の病気は、ここにきて良くなり、今は発作を起こすこともなく、本人も喘息持ちだとは知らない。
兄の気持ちも聞かずに引っ越したことは、今、東京を選んだことからすると、霞を優先させて申し訳なく、なにも知らずに育った霞に敢えて話すつもりもないとのことから、
「このことは、坊主も聞かなかったことにして欲しい。」
とおじさんは締めくくった。
都会を懐かしむ兄、山の澄んだ空気が必要な妹、そんな中で、街を疎ましいと思う両親の気持ちから、霞も街嫌いになってしまったと思う、とおじさんは付け足した。
喘息が完全に治ったか判らず、都会に行ったこともないそうだ。