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霞草
第7章 すれ違い
僕は止まらない霞の涙を指先で拭い、
「好きだよ。霞のこと、好きだよ。」
と言って、唇のリップを親指で撫でて拭った。
霞が顔を上げて僕を覗きこむ。
「こんな想い初めてなんだ。
だけど、僕は、浪人生で家出中で、親父を継いで医者になるように言われて、何一つ満足に出来やしない。
取り敢えず、ここにもあと少ししか居られない。
これ以上、守れない約束をして霞を悲しませるわけにはいかない。」
僕の目にも涙がたまる。
こらえながら霞の表情を伺うのがやっとだった。
霞が頷いている。
「ごめんなさい。わかってる。それでも好きなの。」
彼女は涙をこらえようとして、しばらくしてぽつりと、
「あなたの名前教えて、なんて呼べばいいの?」
と言った。
僕は宿帳にもいい加減な名前を書いて、名乗ってもいない。
本当の名前を知らせるべきだったが、自分の名前は好きでなかった。
「しゅう…しゅう、と呼んでいいよ。」
本当は修二だったが、兄が修一で、次男だから修二。
この名前が全てを表しているようで好きでなかった。
だから、誰にも呼ばれたことはないが、「しゅう」と呼んで欲しいと頼んだ。