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銀木犀の香る寝屋であなたと
第1章 月夜の出会い
 二人に変化が訪れたのは三年目の春だった。
浩一が家の前にやってくる途中突然、小雨が降り始めた。
葉子は慌てて手拭いをもって浩一のそばに駆け寄る。

「あの、どうぞ中に入ってください」
「いいのかい?」
「ええ。濡れますから」

 パラパラと降り始める中、走り家の中に浩一を招き入れた。

「どうぞ。むさくるしいところですが……」
「ありがとう」

 土間からすぐに板間へとあがり、薄い座布団をだし、浩一にすすめた。

「うちは他所より奉公人にまあまあな給金を出してると思ったんだが……」

 四畳半の部屋には粗末なちゃぶ台と小さな茶箪笥、つづらが二つばかりあるだけだった。

 葉子は顔を真っ赤にして俯きながら「夫の借金がまだ残っていて……」と呟いた。

「そうか」
「あの、でも、もうそろそろそれも終わりますから気にしないでください」

 浩一は援助を申し入れようとしても葉子は頑として受け入れないことをわかっていたので、それ以上言わなかった。
葉子は出せる茶もなく恥じ入るばかりだった。

「寒くない?」

 小さくなっている葉子を見て浩一は尋ねる。

「いえ、もう良い季節ですね」
「手を見せてごらん」

 そっと葉子は手を差し出した。

「薬塗ったんだね。よくなってきている」
「はい。ありがとうございます」

「無くなったら言いなさい。持ってくるから」
「いえ。もう十分ですから」

「仕事で出来たあかぎれなんだ。いいんだよ。そんなに気にしなくても」
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