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銀木犀の香る寝屋であなたと
第2章 家族
数年は安穏とした日々が続いた。葉子は後妻におさまってもよく働き、いつの間にか使用人たちの『色目を使った』という陰口は消えていった。
夫婦仲も睦まじく商売も安定しており、心配性の老いたばあやも安心している。
珠子は女学校に通い、一樹は師範学校へ通っていた。何不自由のない生活ではあるが、いずれ珠子は家の決めた縁談で家を出ることとなり、一樹はこの沢木家を継ぐことなく小学校教諭を目指している。
浩一と葉子の結婚は親戚中から財産目当てであると言われ反対された。そこで浩一の姉から次のような提案という条件がくだされた。
ひとつ、沢木家を一樹に継がせないこと。
ひとつ、珠子に婿養子を取らせないこと。
ひとつ、浩一、亡き後、葉子と一樹に沢木屋の財産を残さないこと。
そして葉子に子供ができた場合は継がせ、できないときは浩一の甥が跡目を継ぐこととなる。
浩一はこの条件を全て飲んだ。彼には葉子しか欲しいものはなく、生きている間は不自由をさせることがないだろうと考えたからだ。
珠子にもこの沢木屋を継がせるよりも嫁に出した方が気楽であろう。
葉子も最初から持っていない財産など欲することはなかった。むしろ一樹を到底与えることが出来なかったであろう高等教育を受けさせられることは願ってもない喜びであった。
これ以上望むべきことは何もない。今この家を放り出されたとて路頭に迷うことはないだろう。
結局二人に子宝は授からなかったが、かすがいは必要ではなかった。
夫婦仲も睦まじく商売も安定しており、心配性の老いたばあやも安心している。
珠子は女学校に通い、一樹は師範学校へ通っていた。何不自由のない生活ではあるが、いずれ珠子は家の決めた縁談で家を出ることとなり、一樹はこの沢木家を継ぐことなく小学校教諭を目指している。
浩一と葉子の結婚は親戚中から財産目当てであると言われ反対された。そこで浩一の姉から次のような提案という条件がくだされた。
ひとつ、沢木家を一樹に継がせないこと。
ひとつ、珠子に婿養子を取らせないこと。
ひとつ、浩一、亡き後、葉子と一樹に沢木屋の財産を残さないこと。
そして葉子に子供ができた場合は継がせ、できないときは浩一の甥が跡目を継ぐこととなる。
浩一はこの条件を全て飲んだ。彼には葉子しか欲しいものはなく、生きている間は不自由をさせることがないだろうと考えたからだ。
珠子にもこの沢木屋を継がせるよりも嫁に出した方が気楽であろう。
葉子も最初から持っていない財産など欲することはなかった。むしろ一樹を到底与えることが出来なかったであろう高等教育を受けさせられることは願ってもない喜びであった。
これ以上望むべきことは何もない。今この家を放り出されたとて路頭に迷うことはないだろう。
結局二人に子宝は授からなかったが、かすがいは必要ではなかった。