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銀木犀の香る寝屋であなたと
第2章 家族
 ただ、心配事が葉子の中にある。一樹と珠子の仲の良さだ。
 珠子は娘らしくふっくらと丸みを帯びた身体つきになり、浩一に似て優しく優美な、日本人形の様だ。
 一樹は葉子に似てはっきりとした顔立ちで今どきの若者らしく凛々しい。背丈もうんと伸び珠子よりも頭二つ分近く差がある。
 当たり前だが外見は全く似ていない兄妹だ。しかし不思議とよく似合っていて知らないものが並んだ二人を見ると恋人同士に見えるだろう。

 二人の子供たちは厳しくも清らかな学校生活と育ちの良い子女、子息に囲まれているためか恋愛ごとには疎いようだ。

 微笑ましくもあるが珠子が一樹の髪に触れるさまや、一樹が珠子に本を読んでやるときの位置が近すぎて、葉子はあらぬ憂いを感じてしまうのだった。
しかしあとわずかで珠子は藤井男爵の一人息子、藤井文弘のもとへ嫁ぐことになり、一樹は試験に合格すれば、隣の県の小学校へ赴任するだろう。
 葉子は自分の懸念が浅はかな親心であるようにと、胸元のロザリオを握りしめながら祈るのだった。


 庭先で珠子の明るい声が聞こえる。

「兄さま、そこの枝をお願い」
「わかったわかった」
「そうそう。開花のほどがちょうどいいわ」

「どこへ持っていく?」
「お母さまのお部屋に」
「そうか。母さんは梅が好きだからな」

 紅梅を葉子の部屋に飾ろうとしているようだ。


 葉子はぼんやりと幸せを噛みしめる。
血のつながりなど何もないのに珠子は彼女を母と呼び慕う。
一樹も浩一を尊敬しているようだ。


 浩一との結婚式の日から葉子はたまに教会の日曜学校へと通った。

 天国というものがあるならばどんなところだろうといつも想像する。
しかし白い一輪挿しに紅梅を差し、笑顔で部屋へ持ってくる珠子の表情を見ると、これがきっと天使の姿なのだろうと思った。
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